短歌(返歌)5首。猟奇歌を嬢舌短歌リズム風に②

【猟奇歌】

春の夜の電柱に

身を寄せて思ふ

人を殺した人のまごゝろ


【返歌】

電柱に花束

置いて去る彼よ

罪の匂いは春の夜の霧



【猟奇歌】

トラムプのハートを刺せば

黒い血が……

クラブ刺せば……

赤い血が出る


【返歌】

トランプに愛を注いだマジシャンの

真っ黒な血で彼女は眠る



【猟奇歌】

真夜中の

三時の文字を

長針が通り過ぎつゝ

血しほしたゝる


【返歌】

真夜中の

三時つらつら過ぎる針

血潮のいばら

君の死に花



【猟奇歌】

血のやうに黒いダリヤを

凝視して少女が

ホツとため息をする


【返歌】

じっと視てホッとため息する少女

ダリアの花は血を想う黒



【猟奇歌】

欲しくもない

トマトを少し噛みやぶり

赤いしづくを滴らしてみる


【返歌】

本命はあなたが欲しい唇を

トマトの赤の滴で騙す



夢野久作『猟奇歌』より

*猟奇的なモチーフの短歌

mikamiryo

短歌作家・三上りょうのしごと部屋