短歌(返歌)5首。猟奇歌を嬢舌短歌リズム風に③

【猟奇歌】

真夜中に

心臓が一寸休止する

その時にこはい夢を見るのだ


【返歌】

夜深く

無数の針の降る夢の

その一本が胸まで届く



【猟奇歌】

殺したくも殺されぬ此の思ひ出よ

闇から闇に行く

猫の声


【返歌】

燃やしても灰を産まない日記帳

闇をみつけたように鳴き声



【猟奇歌】

すれ違つた白い女が

ふり返つて笑ふ口から

血しほしたゝる


【返歌】

君だけにみえる女のいる秘密

血の滴りを笑うのは誰



【猟奇歌】

美しく毛虫がもだえて

這ひまはる硝子の瓶の

夏の夕ぐれ


【返歌】

蝶になる約束のひと

美しく悶える夏を瓶に詰めたい



【猟奇歌】

紅い日に煤煙を吐かせ

青い月に血をしたゝらせて

画家が笑つた


【返歌】

指先の血の滴りを

カンヴァスに

紅い日に煤 青い月に恋 



夢野久作『猟奇歌』より

*猟奇的なモチーフの短歌

mikamiryo

短歌作家・三上りょうのしごと部屋